歩く習慣──心と体を前に運ぶ力

歩くという行為は、誰にとっても身近で、特別な道具も場所もいらない健康法です。それでいて、心と体の両方に驚くほど深い効果をもたらします。
私はうつ病を経験したとき、何よりも救いになったのが「歩く」ことでした。気分がふさぎ込み、家に閉じこもりがちだった頃、医師に勧められて近所を5分、10分と歩くようになりました。それだけで、少しずつ気分がほぐれていくのを実感したのです。
貝原益軒の『養生訓』にも、歩行は「気をめぐらせ、心をすっきりさせる」とあります。
つまり歩くことは、単なる運動ではなく、心の整理にもつながるというのです。
現代は便利な世の中になりましたが、その分だけ「歩かない暮らし」になっています。車やエレベーターがあると、つい頼ってしまいます。しかし、あえて少し遠回りをして歩く。エスカレーターを使わず、階段をのぼってみる。そんな日常の小さな選択の積み重ねが、体調だけでなく気分にもよい影響をもたらしてくれます。
私の提唱する「清活習慣」の中でも、歩くことは“流れをつくる”大切な行動です。歩くと血流がよくなり、脳が活性化されます。そして何より、「前に進んでいる」という感覚が、気持ちを前向きにしてくれるのです。
歩くことで、考えがまとまったり、悩みが軽くなったりすることもあります。ときには、歩きながら空や木々に目をやり、「今日も生きている」と感じるだけで、心が整っていくのです。
今日、ほんの10分でもかまいません。
スマホをポケットにしまって、ゆっくり歩いてみませんか? それがあなたの「今日を整える」一歩になるかもしれません。