書く習慣──心の声を紙にうつす、やすらぎの時間

私がうつ病から回復する道のりの中で出会った、思いがけない「癒しの習慣」があります。
それが、「書くこと」でした。

誰に見せるわけでもなく、うまく書こうとする必要もない。
ただ、自分の思いや不安をノートに書き出す――
それだけで、驚くほど気持ちが軽くなったのです。

貝原益軒は『養生訓』の中で、「心の中の思いは、長く秘しておくべからず」意訳 香月恭弘 と述べています。思いをため込むと、それが病となる。言葉にして吐き出すことで、心は整い、命も整う――そう教えているのです。

現代の心理学でも、「書くこと」は心の健康を保つ有効な手段とされています。特に、高齢期に入ってからは、「思い出を書き留めること」が自分の人生の整理につながり、生きる意味の再確認にもなります。

「清活習慣」の一つとしておすすめしたいのが、「三行日記」です。
・今日一日でうれしかったこと
・感謝できたこと
・気づいたこと

この三つを、毎晩寝る前に短く書き留めるだけで、自分自身を見つめ直す力が養われていきます。

私の場合、最初は「今日は特になにもなかった」と書いていた日もありました。けれど、続けていくうちに、「雲がきれいだった」「久しぶりに友人と話せた」など、小さな幸せに目が向くようになってきたのです。

手で書くという行為は、スマートフォンでの入力とは違って、思考のペースをゆるめてくれます。書きながら、自分の内側と静かに向き合える。
それはまるで、心の中にそっと灯をともすような時間です。

「書く習慣」は、自分の中に平穏を生み出します。
過去を悔やむでもなく、未来を不安がるでもなく、
「今の自分」と誠実に向き合うための、やさしい習慣なのです。