笑う習慣──心をほどく、いのちの潤滑油

笑う門には福来る」と昔から言われます。
けれど、うつ病で苦しんでいたころの私には、笑う気力すらありませんでした。
そんなとき、心のリハビリとして試したのが、「作り笑い」でした。
鏡の前で、無理やり口角を上げる。それだけのことでしたが、これが驚くほど効果があったのです。顔の筋肉を動かすと、脳が「楽しい」と錯覚し、少しずつ心が軽くなる――これは脳科学の研究でも裏付けられています。
貝原益軒は『養生訓』の中で、「笑いは気を和らげ、血の巡りを良くし、百病を防ぐ」意訳 香月恭弘 と述べています。
つまり、笑うことは単なる気晴らしではなく、「命を養う行為」なのです。
笑いは副交感神経を優位にし、血圧を下げ、免疫力を高めます。
何より、「笑う人のそばには、人が集まる」という力があります。高齢になっても孤立せずに過ごせるのは、笑いのある人です。
笑う習慣を身につけるのに、特別な道具はいりません。
テレビでお笑いを見てもいい。子どもや孫の話を思い出してもいい。
そして、「ありがとう」と言いながら笑顔を向ける。それだけでも、心に灯がともります。
私は、講演のなかでよく「朝いちばんに笑う練習をしましょう」とお伝えしています。寝起きの顔で構いません。口角を上げて「今日も一日よろしく」と自分に微笑みかける。その日一日の始まりが、まるで変わってきます。
笑うことは、誰にでもできる「清活習慣」です。
心をほぐし、体を緩め、人との関係をあたためる。
それはまさに、人生を明るく照らす“処方箋”なのです。